会話補助、コミュニケーション補助、意思伝達装置のことや、リハビリに関することをお伝えします。
文章作成を支援するソフト「ハーティラダー」をお仲間と開発された吉村隆樹さんです。
吉村 隆樹(よしむら たかき)
昭和40年7月31日生まれ
現在 (株)ラボテックに勤務「パソボラ こころのかけはし」に所属し、意思伝達ソフトHeartyLadderの開発とサポートに当たっている。
私たち長崎のボランティアグループ『パソボラ こころのかけはし』が、HeartyLadderというソフトを作って、2010年で10年になりました。このソフトはキーボードやマウスが使えない人達が、パソコンで文章を入れたりできるようなものを作ってほしいという依頼があり、約1年かけて、グループのメンバー全員で作った意思伝達のためのソフトです。当初はひらがなだけが入力できるようにと考えていたのですが、作っているうちに、漢字も入れられるようにしたり、メールもできるようにしたりと当初の計画以上の機能を持たせるようになりました。そして、このソフトを公開してからは利用者さんからの要望も多数あり、それらを取り入れてきて、インターネットができたり、Windowsの操作ができたりという現在のようなソフトになりました。
このHeartyLadderはだれもが無料で自由に使っていただけるようフリーウェアとして公開しています。ですから、どれだけの人に利用していただいているのかということは全然、わかりません。でもときどき届く、お礼や感想のメールが、とても嬉しくて、それらがHeartyLadderを作る上での大きな励みになっています。
ところで、このHeartyLadderは、今まで私にとっては人のために作っているソフトでした。私自身、脳性麻痺の障害があり、手も足も口も不自由です。パソコンのキーボードもちゃんとは入力できませんが、リハビリのおかげで、床に座ってスティックを両手で握ってキーボードを使えるようになりました。なので不自由さはあるもののHeartyLadderを使うほどではありません。
そんな私が今年、県のある委員会の委員に選出されてしまいました。私に気の利いた発言ができるだろうかと、だいぶ悩んだのですが、仕方なく、了承し、第1回の委員会に出席しました。そこで一人一人、順番に意見が求められました。その時は言語障害のある自分の声で意見を述べました。私は普段は障害がある自分の声で会話をしています。家族はもちろんのこと、友人や会社の同僚とも……。初対面の方にはちょっと聞き取ってもらえない場合も多いのですが、だいたいはそれで会話ができています。会社の人とは電話でも話せるほどなので、その委員会のときも同じような感じで臨みました。
そして私の番が回ってきて発言……。ところが、一対一で話すときと大勢の人を相手に話をするときとは、全然違っていて、私の言ったことがほとんどわかってもらえませんでした。その後、通訳をして言い直してもらったのですが細かいニュアンスなどがうまく伝わっておらず、残念な気持ちで帰ってきました。
2回目以降の委員会では、最初のときのようなことにならないよう、パソコンの音声を使って発言するようにしました。発言する意見は事前に入力して準備しておきました。でも周囲の人の意見によっては、私の事前に準備してある意見も修正する必要があると思いました。でもパソコンの操作をするには床に座らなくてはならず、委員会のような場でちょっとそういうことはできそうにありません。そこで考えたのがHeartyLadderを利用するということです。9ボタンスイッチというものを利用することで、日本語入力ならローマ字のような感じで素早く入力ができますし、ボタンの間隔を空けたものなら、車いすに座った姿勢で私でも操作できます。それで以前からHeartyLadderがきっかけで懇意にしていただいている北九州の特別支援学校の先生にその先生自身が作られた9ボタンスイッチをお借りして、第2回の委員会に臨みました。そこでは私の予想どおり、原稿を修正する必要が発生しました。でも、すごく緊張は伴いましたが、その9ボタンスイッチのおかげで、私の思い通りの内容に修正ができ、その文章を合成音声にのせて発言することができました。音声が流れている間、周囲を見渡してみると、最初のときとは違い、発言に合わせて、相づちを打ってくださっている人が何人もおられてほんとうに嬉しくなりました。自分の気持ちが相手に伝わることの喜びを改めて感じられた瞬間でした。
そして私たちが作ったHeartyLadderを自分自身のために使った瞬間でもありました。「自分が作ったソフトが、委員会という重要な場所で何の問題もなく、私のために役目を果たしてくれた」そう思うととても嬉しくなりました。その後、友人にお願いして私用の9ボタンスイッチを作ってもらったことは言うまでもありません。
今回のことでHeartyLadderを使ってコミュニケーションができたということを私自身が体験して喜びを感じました。全国でどれくらいの人が利用されているかはわかりませんが、私と同じようにHeartyLadderを利用してコミュニケーションができることを喜んでおられると思います。「その喜びが私たちが作ったHeartyLadderによってもたらされている」そう思うと無性に嬉しくなってきます。これからも微力ですが、HeartyLadderを利用してくださっている方のために、そして自分自身のためにも、開発を頑張っていこうと思っています。
吉村隆樹
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